CURRICULUMカリキュラム概要

本コースは、医療人類学、バーチャル技術、地域医療という特徴から、医学生が大学内外の様々な経験を通して、医療およびそれを取り巻く社会にまつわる様々な事象について、従来の枠組みに捉われずに、大学教員、実習をきっかけに出会う医療職、患者さん、住民の人たちと「共に」考えることを目指します。
更には、医学生が未来の臨床・研究と結びつけながら自分だからこそ発することができる「問い」を見出し、そこからうまれるアイデアを共有する場を創ります。

医療人類学とは

医療人類学とフィールドワーク

医療人類学とは、異文化理解を通じたコミュニケーションのあり方を模索する文化人類学(以下、人類学)の下位分野です。
本コースで鍵となるのは、人類学の強みでもあるフィールドワークと呼ばれる手法です。フィールドワークとは、人びとの生活の場において、人びとと交流を深めながら、人びとから見える世界を理解し、人びとにとって何が重要で何が問題とされているのか、といった事柄について、フィールドで考える研究方法です。
医療人類学では、病む人の苦悩や治療の経験に特に焦点を当ててフィールドワークを行います。

このように、医療人類学は、「現地に赴き現地の文脈のなかで他者を理解する」ことに重きを置くが故に、生活に近い場所で医療を行う領域(例えば、総合診療、プライマリ・ヘルス・ケア、在宅医療)と結びつけられて取り入れられてきました。
本コースにおいてもそれは重視しますが、加えて以下の点にも光を当てていきます。

自己相対化

医療とは、医療者と患者という成り立ちが異なる人同士が、人の人生や生活の根幹に関わることについて、時には初対面の中で様々なやりとりを重ねていく営みです。目の前の人の病いの人生や生活の上での意味を捉える上でも、そしてその前提の異なる人たちと一緒に解決方法を考えていく上でも、自分が持っている様々な当たり前や正しさが実は目の前の人にとっては違うかもしれないという想定を持って関わることが重要ですが、それは容易ではありません。その際に、人類学者がフィールドの中で行う「自己相対化」の構えが参考になります。

異文化の中でフィールドワークを行う人類学者は、日常的にいわゆるカルチャーショックとでもいうべき違和感、場合によっては嫌悪感を伴う体験をします。例えば、自分が親切のつもりで行ったことが現地の人に迷惑として捉えられたり、申し訳ないことをしたと思いきや感謝されたりするのです。そして自分にとっての当たり前(例:正しさ、男性・女性らしさ)は異なる社会では当たり前ではないということに身をもって気づかされます。このような経験を通じて、医療人類学者はあらゆる言動や実践について、それが行われる社会的文脈の中で、誰から見た、誰にとっての正しさであるのかということを、その都度立ち止まって考えようとします。この「誰にとっての」という問いを考えることで、それまで客観的、一般的と思っていたことが実は立場によって全く違ってみえることを明らかにしていくことが「自己相対化」です。

一例を挙げると、今の時代の医療では、「目標を設定し、それに対して効率的な手段を取る」というあり方が強い影響を持っているように思われます。(そして、それは時に医療を受ける生活者としての患者や家族の生き方と摩擦を起こすこともあります。)その際に、そうした「当たり前」も含めて相対化し、別のありようがないのかを探っていくことも自己相対化の重要な側面です。(なお、「目標を設定し、それに対して効率的な手段を取る」ことは医療のみならず、教育においても強い影響力を持つ考え方です。本コースではそれについても「別のありよう」がないのか、学生と共に考える機会を持ちたいと思っています。)

地域医療

皆さんは、「地域」「地域医療」と聞くと何を思い浮かべるでしょうか?

ある人は行政区画で切り分けられた土地の一つ一つを、またある人は自分の故郷のような愛着のある土地を思い浮かべるかもしれません。一方で、地域医療という言葉からは「へき地」に特化した医療や「大学ではないどこかで行われる医療」を想像し、場合によっては「自分とは関係ない遠いもの」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。

本コースでは、政策や行政に携わる方、へき地に携わる医療者を含めた様々な方との出会いを通じて、「地域」および「地域医療」の捉え方に、実に様々なものがあることを知ってもらいます。その中でも特に、「地域」を都会や田舎に関わらず、人が生活や何らかの活動を営む一つ一つのローカルな現場と捉え直すことを試します。この視点からは、例えば大学病院における医療も、そこにいる特有の医療者と患者が創り上げた活動であり、一つのローカルな現場だと言えるかもしれません。

このように地域医療を人口の過多からではなく、僻地・大学病院の医療のそれぞれのローカルな実践として考えることは、人類学の項目で述べた自己相対化にも通じる捉え方です。そうすることで、それぞれの医療に優劣をつけるでもなく、完全に別として分断するでもない関わり方を探求し、ひいては、その往復からでしか見出せない視点から社会環境の変化の分析や、新たな医療実践や医学研究の模索につなげたいと考えます。

バーチャルとテクノロジー

バーチャル技術の導入は、医療や教育をどのように変容させるでしょうか?

本コースでは、様々なバーチャル技術を活用し、学習者が従来の教科書や文献学的な知識だけではなく、医療現場で必要となるような思考方法(臨床推論・臨床判断、診療計画の立案など)や身体診察など臨床現場に必要な能力を指導者の下で安全なバーチャル環境で学ぶことができます。

特に高学年の、「バーチャル臨床実習」の狙いは、すべての学習者がすべての教育的症例に必ず遭遇できるとは限らない臨床実習の偶然性という課題、症状を再現することの難しさや学習者が反復して視診や診察などを行うのが困難な実臨床の限界を踏まえ、各種テクノロジーを用いた学習により仮想体験することにあります。

このツールを駆使することで①はなれた"ローカル"に居住する患者さんとの接点を持つこと、や、②仮想空間にいる患者さんを診療する体験、③バーチャル空間というローカルの学習体験を、複数の拠点にいる指導者・学習者で共有することが可能です。さらには仮想空間の医療英語や医療英会話の学習ツールとして活用すれば、"外国にルーツを持つ在留者の生活するローカル"を想定したグローバルな体験も可能となります。低学年においても、バーチャル教育や生成系AIを活用したローカルにおける"医のアート"を学習することを目指します。

受入目標人数及び履修者数

名古屋大学

対象者/年度 令和4年度 令和5年度 令和6年度 令和7年度 令和8年度 令和9年度 令和10年度 (年次)
1年次 10 10 10 10 10 10 60
2年次 10 10 10 10 10 50
3年次 10 10 10 10 40
4年次 10 10 10 30
5年次 10 10 20
6年次 10 10
(年度) 0 10 20 30 40 50 60 210
実績 0

岐阜大学

対象者/年度 令和4年度 令和5年度 令和6年度 令和7年度 令和8年度 令和9年度 令和10年度 (年次)
1年次 24 38 38 38 30 30 30 228
2年次 30 38 38 38 30 30 204
3年次 30 38 38 38 30 174
4年次 30 38 38 38 144
5年次 30 38 38 106
6年次 30 38 68
(年度) 24 68 106 144 174 204 204 924
実績 28